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もうそろそろ漫画だけに集中させてくれ

2026年7月14日

漫画を描きながら自然と考えるようになった「ジェンダー論」や「フェミニズム」について。
シスターフッド書店kanin発行のZINE『どうしてフェミニストやってるんですか?』に掲題のテーマで寄稿したエッセイ。

「男は普通童顔でおっぱい大きい女が好きなんですよ。」

「こういう性描写のある作品は、女の子をかわいく描くともっと良くなると思う。」


これらは、私が実際に編集者から「作品への指導」として言われた言葉です。

彼らは、私の作品が「女の子をかわいく描く」ことで、もっと良くなると思って真剣に言っていました。

でも、漫画の女の子たちの「かわいい」は誰がどうやって決めた基準なのでしょうか?

そして、本当に女の子が「かわいく」なれば、私の作品は良くなったのでしょうか?


初めまして。私は2019年に新人賞を受賞して商業漫画誌でデビュー後、2025年まで連載や読切の作品を描いて、少しだけ出版社とお仕事をしていました。2026年現在は、主に自主出版で活動しています。

私は、自分が漫画を描き始めるまで、というか漫画で仕事をするまで、ジェンダー論やフェミニズムについて、そこまで真剣に考えたことがありませんでした。言葉として、どういうものかはわかっていたけれど、当事者としての実感はあまり持てないでいました。


そもそも、自分が「女性の当事者」であるという実感さえありませんでした。

性別違和があるわけじゃないけど、何となく女性のコミュニティが苦手。女の子たちの言ってること、母や祖母の言ってること、テレビのバラエティの女の人や、映画やドラマの女の人の言ってること。そういうのを、「共感できること」じゃなく、何となく「他人事」のような距離のある感じで見ていました。自分は「女」だけど、自分はあの人たちとは関係ない。

なぜかそんな気がしていたのです。


だけど、大人になるにつれて、「どうやら私が他人事だと思っていた世界の一員として、自分も周りから見られているらしいぞ・・・。」ということを感じるようになってきました。

特に、異性と関わる場面、もっと具体的に言うと、恋愛感情が絡む場面で。


そんな時期に、子供の頃から描いてみたかった漫画を描いて、雑誌への投稿を始めた私は、「そういう何となくのもやもやとか苦しさを漫画にしてみようか。」と思いつきました。

そしたら、「人間の心理をよく描けている」ということで、評価していただきました。

私にとって「漫画ってもやもやを解決する手段にもなるのか。」と発見できた瞬間でした。

だけど、大人になってから漫画を描き始めた私は、何もかも未熟でした。

構成は褒めてもらえることが多いけど、絵柄や漫画としての未熟さは厳しく指導されます。

その指導の一環で出てきた編集者の提案が、


「女の子かわいく描いたら?」でした。


「なんで?」と思いました。


青年誌で性描写のある作品を描いているから、女の子のかわいさで人を惹きつける必要がある。

というような説明でした。


私は固まっちゃいました。

現実世界での、「かわいいから自由になれない性別」に生まれてしまった苦しさを、作品にしたくて漫画を描いてるのに・・・?


たぶん、私がわかりやすく「ルッキズム」とか「ジェンダーロール」をテーマにした作品を描いていれば、彼らも理解できたのかもしれません。

でも、普通に生きてて、なんか気づいたら勝手に巻き込まれているし、「自分にはそんなこと関係ない」と思っていても、周りはそう思ってないことも多いから、完全に逃れることは不可能。

そして、そのことに気づいてすらいないから、苦しさの原因がわからない人もいる。だって、「当たり前」に存在している価値観だから。

そういうはっきり言葉にできない苦しさを、何とか表現することで解消できないか。と考えていたのに、表現の世界でさえそれを求められるなら、私はどうしたらいいのだろう・・・。

そう思って私はかなり悩んでしまい、漫画を描くことがとても苦しくなってしまいました。


今でこそ、こうやって少し言葉にできるようになったけど、当時は自分でも説明できない感覚を描こうとしていたので、編集者ともうまくテーマを共有できていなかったと思います。

もし、そこを共有できていれば、何か違ったのかもしれません。

でも、作品の改善点として「女の子をかわいく描く」ことが、当たり前のように提案されたのはなぜなのでしょうか。

そして、その「かわいい」の基準は誰目線によるものなのでしょうか。

例えば、私が「性」を題材にした作品を描いていなくても、同じことは言われたでしょうか。

そもそも、私の描く女の子は、なぜ「かわいくない」と判断されたのでしょうか。だって、私は「かわいくなく」描こうなんてしていなかったから。


その理由を探るべく、私は自分の考えたことや悩んでいることを言葉にし始め、必要があれば勉強したり調べたりするようになりました。

フェミニズムやジェンダー論って、そういうところから始まったものだと、私は思います。

「生きづらさの原因を解決するため」

私の場合は、「描きたいことを好きに描けるようにするための環境を整えるため」でした。

漫画を描き始めた頃、私は自分がこうやって文章を書いたり、自分で本を作ったりするなんて思っていませんでした。でも、今ではそれも、漫画を描くための大切な活動になっています。

疑問に感じたことを文章にしてるうちに、新たな漫画のアイデアや設定を思いついたり、頭の中が整理されて、自作への理解が深まったりするからです。


だから、私はこれからも考え続けると思います。

けど、これだれ言葉にしてきたんだから、もうそろそろ漫画だけに集中させてくれ。とかも思うんだけど。

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© 我妻ひかり
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